理化学研究所 基幹研究所(和光)

 理化学研究所(以下、理研)は全国いくつかの地区に存在しますが、テラヘルツ研究に携わっているほとんどの研究者は仙台研究所に在籍しています。この研究所から多くのユニークな研究成果が生み出されていったのはご周知の通りだと思います。その他にもごく少数ですが、理研の和光研究所にもテラヘルツ研究者は存在します。本稿では、筆者の所属する研究室のテラヘルツ研究について紹介させていただきます。
 筆者は2006年4月に東京大学大学院・物理学専攻から理研に異動しました。所属先の研究室はテラヘルツ研究をメインにしているわけでなく、半導体ナノワイヤやカーボンナノチューブなどを使った量子情報やスピントロニクスの研究を主要テーマにしています。理研の研究室は、各研究者が独自のテーマを持って自由に研究を進めていく風土があるのが特徴です。筆者自身はもともと半導体物理―特に量子ホール効果やメゾスコピック物理を専門にしていました。以前から計測手段としてテラヘルツ波を使ってはいましたが、より本格的に「テラヘルツ」を意識した研究を展開するようになったのは理研に移って以降になります。様々なバックグランドの研究者が集うテラヘルツ研究コミュニティの中でも少し変わり種かもしれません(?)。
 もともと半導体を微細加工して電気伝導測定やイメージング測定を行うことを得意としていましたので、それを生かしたテラヘルツ機能素子の開発やその応用研究が特徴と言えます。具体的な研究テーマは以下の通りです。
・半導体低次元構造やカーボンナノ物質を用いた高機能テラヘルツ検出器の開発
・近接場テラヘルツイメージングの開発
・テラヘルツ計測を用いた物質科学研究
 いずれも半導体やカーボン物質(カーボンナノチューブやグラフェン)の特異的な性質をうまく利用して、テラヘルツ素子(検出器、近接場イメージング素子)として高い機能を引き出すことに成功しています。3番目の物質科学研究への応用は筆者の元々の専門からの自然な流れで、「テラヘルツ計測が電子材料物性研究にも有用」という観点から研究を進めています。最近は特にグラフェン(炭素単原子層)に特徴的なディラックフェルミオンがもたらす面白い性質に関心を持っており、ディラックフェルミオンのテラヘルツ波共鳴という興味深い現象を観測しました。以上の成果で筆者(河野行雄)は、平成21年度文部科学大臣表彰・若手科学者賞、平成20年度光科学技術研究振興財団・研究表彰、第2回日本物理学会・若手奨励賞受賞(2008年)等を受賞し、年鑑版紳士録Marquis Who's Who in the World 2010に収載されました。
 テラヘルツ波の持つ潜在的活用力を考慮すると、開発した技術をより広く共同研究という形で展開したいと考えています。その中には、アレイ型のテラヘルツ分光検出器や高解像度テラヘルツカメラの開発など、実用化を意識した研究開発テーマもあります。大学・研究所だけでなく企業の方々も含めて、ご興味のある方はぜひ下記宛先までご一報いただけたらと思います。

文責 河野行雄
http://www.riken.go.jp/lab-www/adv_device/kawano/index.html