岡山大学大学院自然科学研究科(計測システム工学研究室)

 岡山は,近畿,山陽,山陰,四国に接する交通の要所として,古代より栄えてきた土地です.岡山大学は,岡山市の街中にあり,研究・教育の中心的役割を果たしています.著者の所属する計測システム工学研究室は,ふるい言い方では工学部電気電子工学科にあたる工学系の研究室で,産業化,実用化を意識した研究を進めています.現在,主な研究テーマは,

・高温超伝導量子干渉素子(HTS-SQUID)を用いた高感度磁気計測システムの開発
・半導体ケミカルセンサデバイスの開発
・電気磁気化学計測システムの開発
・テラヘルツ波を用いたバイオセンシング技術の開発

などがあり,直流からテラヘルツまでの広いスペクトル範囲の計測を行っています.測定対象のスケールもタンパク質などのサブミクロンサイズの反応検出から船舶に用いられる鋼管などのメーターサイズの欠陥検出までに広がっています.研究室は,塚田教授・紀和(著者)のスタッフと学生は大学院・学部を合わせて27名(スタッフ2名です!!)が在籍し,そのうち9名がテラヘルツ波に関する研究を行っています.
  著者は,2004年より当研究室の所属となり,特にフェムト秒レーザー励起によるテラヘルツ波パルスを用いた計測システムの立ち上げ,研究を進めてきました.その中で,開発を行いました「テラヘルツ波ケミカル顕微鏡(TCM)」についてご紹介させていただきます.
 TCMは,テラヘルツ波を用いて水溶液中のタンパク質相互作用を観測したいという簡単な動機より出発し開発をはじめました.TCMでは,絶縁体膜・半導体膜の2層構造からなるプレートを用います.フェムト秒レーザーを照射することで,半導体膜界面の空乏層電界によりテラヘルツ波を発生させています.絶縁体膜表面でタンパク質の反応がおこると,表面でのケミカルポテンシャルが変化しますので,それにより空乏層電界が変化し,結果としてテラヘルツ波の振幅が変化します.分光学的な検出とは異なり,テラヘルツ波と水溶液に直接の相互作用がないため,吸収の影響を受けない計測が可能です.結果として,ビオチン―アビジン結合系で5pmol/Lという検出感度を達成することが可能となりました.また,レーザー波長の空間分解能でプレート上のケミカルポテンシャル分布を可視化できることも大きな特徴です.2009年度には,岡山県内の企業数社とTCMの実用化に向け研究会を立ち上げ,実用化に向けた検討を行ってきました.2010年度からは,参加企業全社が,岡山大学内施設に拠点を持ち本格的な開発に着手しています.
 また,TCMの他に,フェムト秒レーザーを用いたテラヘルツ波面制御素子や,分光チップなどにも着手しており,精力的にテラヘルツ波の研究を拡大していきたいと考えています.
 上記テーマに限らず,テラヘルツ波に関する研究でお力になれることがありましたら,下記アドレスに気楽にご連絡いただければと思います.


研究室メンバー 2010年3月25日

文責 紀和利彦